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アルメニアンコニャック

ワイン評論家としてご活躍されている田中克幸さんという方が、アルメニアワインとアルメニアンコニャック(いわゆるソ連コニャック)について言及されているのに気付き、夜中に読み耽っていると「オトボルヌイが美味しかった」という記述にもやもやして、ついコメントを残してしまいました。

 

「オトボルヌイ(отборный)」っていうのはロシア語で「選ばれた、選り抜きの」という意味なのでそりゃあ美味しいだろうと皮肉っぽいことを書いてしまい、あとになって赤面。

夜中にSNSを見るもんじゃないよね・・・

 

「オトボルヌイ」とはロシアでは小麦や卵、牛乳など工業製品にはよく表記されている用語で、そう書いてあるからといって特別美味しいってこともないので特に注意を払う必要はないと思います。(「良質な小麦を使用したパン」みたいな感じ)

喩えていうなら、ボルドーワインに書いてある「グラン・ヴァン (Grand Vin )=偉大なワイン」と似たような意味合いですね。

 

ちなみに、

 

・6年ANI
・15年VASPURAKAN
・20年NAIRI
・そしてチャーチルが好んだとされるDVIN

 

はどれも古都の名称なので、なぜ7年ものだけオトボルヌイなんていう一般名称なのか謎です。

本当に7年ものが絶妙な年数なのかも知れないけど、一般的には20年ものの「ナイリ (NAIRI)」が最良とされており、土産物でもナイリ以外を買う人は見たことがないな。

一昨年アルメニアを訪れたとき、興味半分で「ドヴィン (DVIN)」を買ってみたのだけど、これはアルコールが50度くらいあって強すぎると感じ、なかなか進みません。

 

なお、この田中氏の比較は大変参考になるので全文を引用させていただきます。

 

□■アルメニアワインの講座

 

ジョージアワインを知っていればなおさらショック。隣の国で、同じコーカサス地域に分類されるのに、ワインの性格は完全に異なります。

比較的重い土で石灰もある、標高低めのジョージア。軽い火山性の土で、標高の高いアルメニア。それだけではありません。民族性や文化の違いも感じられるのです。以前ジョージアの人が、ジョージアは武士でアルメニアは商人と言っていました。アルメニアは確かに商人国家としてペルシャとトルコの間で生きながらえてきました。イスラムの大国の只中にあるキリスト教の小国がアイデンティティを保ち続けるためには、大国にとっての存在価値がなければなりません。それが商いに長けたアルメニア人がもたらす商業利潤だったのです。というわけで、ジョージアが北京料理的味ならアルメニアは広東料理的味です。人の顔つきもそういう感じです。厳しいジョージア人に対して可愛いアルメニア人です。

そしてジョージア語は他の言語との関係が不明な独自の言語なのに対してアルメニア語はインドヨーロッパ語族。だからアルメニアワインはオリエンタルな味がしません。確実にヨーロッパワインの味です。東方からの遊牧民起源を感じるブルガリア以上に、ヨーロッパです。地理ではなく味わいとしては、ジョージアとアルメニアをコーカサスワインとして一括りにしてはいけないのだ、と、御参加の方々は理解されたようです。

アレニ・ノワール、特に道端で買ったワインの美味しさは圧巻です。家庭醸造のペットボトルワインだというのに恐るべきレベル。ちゃんとしたワイナリーの高価な瓶詰めワインより遥かにエネルギーがあります。

ワインアカデミーで「好きなアルメニアワインは何か?」と聞かれ、「アレニの道端ワイン」と答えました。嘘でしょう!という顔をされました。「あれが外国人に評価されるワインだと思いますか?」、と。私は「もちろんです。あれが評価されないならアルメニアのPR不足が問題なのであってワインの問題ではない」。西欧におもねったワインなどいりません。皆がそう自信を持って言えるようになればいいのですが。

最後はアルメニアン・コニャック。エレバンのヒンカリ屋で飲んだものと同じ、オトボルヌイ。参加された方々揃って大絶賛でした。アルコールっぽくなく、ちゃんと果実の香り味がします。粘り、厚み、腰の座りは、最初の二本の白ワインと同じ、典型的アルメニア白ブドウの個性。ブドウの多くは自根なはずなので、下方垂直性が顕著で、それが西欧のブランデーに対する大きな優位点になっています。私は蒸留酒を日頃口にしませんが、私でもついつい飲んでしまうほど美味しい。旧ソ連時代には共産圏のブランデーの供給源だったアルメニアの技術的蓄積を感じる完成度です。

 

〈田中克幸〉